【相続対策】不動産管理会社の設立
会社設立のメリット
前回は、不動産管理会社の設立の概要についてご案内しました。会社設立のメリットを引き続きご案内します。
1 会社で生命保険に加入し、修繕資金や退職金の準備をする
会社契約で役員を被保険者として生命保険に加入すると掛捨部分の保険料は費用として処理できます。具体的には「逓増定期保険」や「長期平準定期保険」をうまく活用します。
契約内容や加入年齢により経費化できる割合等は異なりますが、上記のような利益繰延型の生命保険に加入し、将来の大規模修繕や役員の退職金準備が見込まれる期間に解約返戻金がピークを迎えるよう設計すると、修繕費や退職金を積立てしたのに近い効果が期待できます。
2 無償返還届出書の提出により、土地の評価額を減額できる
不動産管理会社を不動産保有方式にした場合に、「土地の無償返還に関する届出書」を提出することで、相続が発生した場合の土地の相続税評価が20%減額となります。
会社設立のデメリットと注意点
不動産管理会社を設立することで、所得税や相続税のメリットを得られることは多いのですが、次のようなコスト等がかかります。
1 会社設立費用がかかる
会社設立には登録免許税や定款認証手数料等の設立費用がかかります。株式会社では30〜40万円程度がかかります。
2 設立後の費用がかかる
設立後も、決算申告の税理士費用や社会保険の強制加入による会社負担分の費用が発生します。また、法人の場合は赤字でも地方税の均等割の最低限の税負担が発生します。
3 所得計算に手間がかかる
不動産の収益や役員給与について、個人所得と法人所得とに区分して計算する必要がありますので、所得計算に手間がかかります。
4 注意点
不動産管理会社の設立方法(後掲)を検討し、それぞれに見合う費用、効果を検討しましょう。また、不動産を会社へ売却する場合、価格の妥当性、銀行ローンの引き継ぎ、所有権移転に伴うコスト等も重要なポイントです。
不動産管理会社の形態
不動産管理会社には運営形態により
①管理委託型
②サブリース型
③不動産
所有型があります。
いずれの場合も親に蓄積される収入の一部もしくは大部分を同族会社に移す効果がありますので、相続財産の増加を抑制することになりますが、形態によってその効果は変わってきますし、発生するコストに違いがあります。
1 管理委託型
不動産は個人の不動産オーナーが継続して保有します。個人所有の不動産
の管理業務を会社に委託して管理料を徴収する方式です。管理料の多寡に
より会社活用の効果が異なりますので、管理料をいくらにするかがポイントです。
2 サブリース型
不動産の所有者は個人のままで、その個人が所有する不動産を空室リスクを加味した低い家賃で一括して会社に賃貸し、これを会社が通常の家賃で第三者の賃借人に転貸する方式です。不動産オーナーから会社へは、受け取った家賃と支払った家賃との差額が所得分散されることになります。
3 不動産所有型
会社が個人から賃貸建物を買い取り、自社物件として管理する形態です。会社は個人に地代を支払うことになりますが、建物の家賃は全て会社が受け取ることになりますので、1、2に比較すると会社の収入は大きく、課税上のトラブルも少なく、スキームも簡便であるといえます。
まとめ
不動産管理会社の設立のメリット、デメリット、注意点を勘案した上で、会社の設立、運営形態を決めていくことになりますが、その目的が相続税の節税対策としてか、所得税の節税対策として取り組むのかによって選択する形態は分かれます。
不動産管理会社に移転できる所得が少なかったり、不動産の移転に費用が掛かりすぎたりした場合などには節税メリットが得られないこともありますので、十分なシュミレーションを行った上で実行しましょう。
(参考文献)
・青木惠一ほか『不動産オーナーのための会社活用と税務』(大蔵財務協会、3訂版、2015年)
・坪田晶子ほか「不動産保有会社の徹底活用法」税理57巻13号54頁以下(2014年)
・大西隆司ほか相続対策実務研究会編集『法務・税務から見た相続対策の効果とリスク 』444頁以下(新日本法規、2015年)
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